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大阪高等裁判所 昭和57年(う)872号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

論旨は、要するに、本件公訴提起は、(一)二重の起訴があつた場合に該当する、(二)然らずとしても公訴権の濫用にあたるから、いずれにせよ公訴棄却の裁判がなさるべきであるにかかわらず、原判決がこれを適法としたうえ被告人に有罪の裁判を言渡したのは、刑訴法三三八条の解釈適用を誤つたものであつて、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから破棄を免れない、というのである。

よつて、所論にかんがみ記録を精査し、かつ当審における事実取調の結果をも総合して検討し、以下のとおり判断する。

(一) まず、所論は、本件公訴の提起に先立ち、被告人は、原判決中(弁護人の主張について)と題する項目中一、記載の公訴事実(覚せい剤事犯三件及び銃砲刀剣類所持等取締法違反・火薬類取締法違反各一件)により大阪地方裁判所に起訴され、審理の結果、右事実につき懲役四年、罰金五〇万円の判決の言渡を受けた(以下前回の訴訟という。)ものであるところ、右事件の捜査・公判を通じ、被告人は本件二回にわたる覚せい剤の密輸入を含む合計約一一キログラムの覚せい剤密輸入の事実を全部自白し、その証拠もそろつていたうえ、検察官においても、前回の訴訟の冒頭陳述及び論告において被告人が四回にわたり合計約一一キログラムの覚せい剤を密輸入したものであることを強調して結審となり、前記のような判決が言渡されたのであるから、前回の訴訟において本件を含む合計約一一キログラムの覚せい剤密輸入の事実が審理の対象となつていたものというべきであり、従つて本件公訴提起は実質的に二重の起訴がなされた場合に該当する、という。

なるほど、前回の訴訟において、検察官が本件を含む覚せい剤合計約一一キログラムの密輸入の事実に言及し、これに関する被告人の自供調書等が証拠として取調べられていることは所論のとおりであるが、そのことは、当然のことながら前回の訴訟において公訴事実となつていた覚せい剤の出所、流通経路等の犯情を明らかにするための資料としてなされたものであることが記録上明らかであり、かつ、原判決も説示するとおり、前回の訴訟における判決の量刑がその認定にかかる犯行内容及び被告人の前科等に照らしまことに妥当なものであることに徴しても、本件を含む覚せい剤合計約一一キログラムの密輸入の事実が前回の訴訟において実質上審判の対象とされたものでないことは明白である。所論は採用し難い。

(二) 次に、所論は、前回の訴訟において、被告人は既に本件を含む覚せい剤合計約一一キログラムの密輸入の事実を全部自白し、証拠もそろい、起訴可能であつたにもかかわらず、検察官が追起訴しない旨言明したため結審となり、前記のような判決が言渡されたものであるから、その判決確定後突然本件各犯行につき公訴を提起したのは公訴権の濫用にあたる、という。

しかしながら、記録によれば、本件公訴の提起が前回の訴訟における判決確定後なされたことについてはやむをえない事由があり、また、所論指摘の検察官の釈明は、右訴訟においては追起訴をしないとの趣旨であることが認められるから、本件公訴の提起が検察官の恣意的な公訴権の行使によるものでないことは明らかである。この点に関する原判決の認定の説示はまことに適切である。所論は採用できない。

してみると、原判決が本件公訴提起を適法としたうえこれにつき審理裁判をしたことは正当であつて、所論のような法令適用の誤りはない。論旨は理由がない。

(栄枝清一郎 吉川寛吾 右川亮平)

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